SPECIAL INTERVIEW
63mokko EXHIBITION
63mokko
SPECIAL INTERVIEW
2022.04.01 fri.
Interview:Yoshiko Asano
Photo:Ryo Inoue
美しい曲線と、限りなく自然な色調、
温もりが溢れる木製の眼鏡。
立川市の平屋に工房を構える「63mokko」の神田武蔵さん。
なぜ木製の眼鏡を作ることになり、
どのように製作しているのか、
お話をうかがいました。
小さい頃から
仕組みが好きだった
眼鏡を作り始めて10年目になるそうですね。なぜ神田さんが眼鏡を作るようになったのかをうかがいたいです。
小さい頃から、図工と木が好きな子どもでした。小金井市生まれなので、近所にある小金井公園に親しんできて、大きな木がある空間は居心地がいいなと思っていました。 絵を描くことも好きでしたが、工作の方にもっと興味がありました。「ひもでくるくる回る仕組みを作ろう」という授業があって、すごくおもしろかったのを覚えています。今に繋がりますが、オブジェのようなものよりも、動く仕組みがあるものが好きなんです。眼鏡も折り畳む部分があるから、作るのが楽しいのかも。うちの眼鏡には、オンラインでも購入していただきやすいよう、つるの長さを変えてかけ心地を調整できる「ウッドフィットレギュレーター」という仕組みを開発したのですが、それの萌芽もこの頃にあるのかもしれません。
小さい頃から、今の仕事に繋がる興味があったのですね。神田さんは木製の家具作りを飛騨高山で学ばれたのですよね?
大学で建築を学び、材木を扱う会社に就職したのですが、一日中パソコンに向かってCADの図面をひくばかりで、まったく木と触れる機会がありませんでした。手を動かしたくなって、会社を辞め、飛騨高山で家具を作りながら学べるという場所へ行きました。
そこで分かったのが、周りの人に比べて自分に家具作りの才能がないことと、人の考えたものは作りたくないという自分の性格(笑)。決められた作業の後や休憩時間には自由に道具を使えたため、その時間はとても楽しかった。その時には学び終えたら、木で眼鏡を作ろうと決めていました。
木は、触って初めて分かる
眼鏡の材料となる木には、どのような種類があるのですか?
例えば、ソメイヨシノはけっこう硬い木で、最初はオレンジっぽい色ですが、かけていくうちにだんだん色が濃くなります。表面のトゥルっとした触り心地も特徴です。
カエデはずいぶん白っぽい木です。野球のバットにも使われるものなので、粘り強いです。
黒っぽいオリーブグリーンのような色はジンダイケヤキ。ふつうケヤキはもっと茶色なのですが、この「ジンダイ=神代」と名前のつく木は、1000年以上の間、何らかの影響で土の中に埋まっていた木が掘り起こされたものです。
その他、アフリカのパドックという赤い色の木など、常時20〜30種類の中から選んでいただくことができます。
一言で「木」と言っても、こんなに色も木目も異なるんですね。これはオーダーの時に悩みそう…。ちなみに神田さんが個人的に思い入れがある木はどれですか?
うーん、柿、かなぁ。黒柿という木があるのですが、僕は木目が一番美しいと思います。黒い色合いも落ち着いていて、眼鏡としてかけやすい。きれいな木目は1万本に1本くらいしか生まれない貴重な木なので、うちで作る眼鏡の中では一番高価ですが、人気も一番です。
木って、触ってみないと分からないものです。以前材木屋さんに勤めていた時は、ヒノキとスギくらいしか取り扱いがありませんでした。いまではいろんな木を扱うことができます。眼鏡を作る時は、まず板にしてから形のラインを取り、糸鋸で切り出していくのですが、板にした時に硬さや表情が見えてきます。そこで眼鏡に向くかどうかが分かります。
言葉は新しい 出会いから生まれる
63mokkoは、言葉も印象的です。
「樹を纏う。」「イトシキヤセイ」とは?
「樹を纏う。」は、そのままなのですが、ふだん身につけるもので木のものってないなぁと考えていて、63mokkoを始める時に自分で考えました。以来ずっと使っています。
「イトシキヤセイ」はアトリエに狼の写真を飾っているのですが、これは動物写真家の久田雅夫さんのものです。写真が本当にかっこよくて。久田さんが自分の作品に使っていたものを受け継がせてもらい、「イトシキヤセイ」という言葉を使って、ヘラジカの角で眼鏡を作るようになりました。 久田さんと出会ったからこそ生まれたコンセプトです。新しいものは、人と出会うことからしか生まれないのかもしれません。ヘラジカの角は、とても硬くて機械の糸鋸が使えないため、手動による糸鋸やナイフ で切り出していきます。加工が本当に大変な素材だけど、自然のものを触っている感じがあります。
久田さんも、特にワイルドというわけではなく、とても穏やかなんですよね。僕も、お金をたくさん持っているわけではないけれど、毎日楽しく生活できているのがありがたいです。世間でいう「いい会社に入って、結婚して、子どもを作って、マイホームを建てて、老後のお金を貯めて」という、ミッションをクリアしていくような生活ではありませんが、不安定に強いタイプなのかな(笑)。
これからやりたいことはありますか?
これからは眼鏡の表現の可能性を広げていきたいですね。実用だけではない眼鏡もありえるかなぁなどと、ぼんやり考えています。いま浮かんでいるのは「ある限定されたシチュエーションのための眼鏡」です。例えば「フェルメールを見に行く時にかける眼鏡」とか「パンクのレコードを聞く時にかける眼鏡」とか。あったら楽しそうじゃないですか?
4回目を迎える中目黒SUTギャラリーでの展示会。 どのようなものになりそうですか?
これまでに購入してくださったお客さまも多くなってきたので、お願いして過去の眼鏡を展示したいと思っています。先程もお話したように、木って新しいものよりも時間が経ったものの方が美しい。ぶつけたへこみも味わいとなります。それぞれに育った眼鏡が集まって、10年分のアーカイブを見渡せるような場になればいいと考えています。
ウッドフィットレギュレーターをつけている眼鏡は、持ち主が変わってもつるの長さを変えて、快適に使い続けることができます。子どもの代にまで受け継いでもらうこともできるかもしれないと想像するのも楽しいんですよね。
木が育つのにも長い時間がかかりますが、その木が眼鏡に姿を変えて、次の時間を生きると考えるのは、なかなかステキなことだと思います。
時間が堆積する眼鏡
Wooden Glasses/木の謹製眼鏡
日本は世界でも有数の、多様な木が存在する国です。古来より日本人は木とともに生き、そのアイデンティティは木と密接に結びついてきました。建築材や日用品に使われてきた木ですが、63mokkoはその可能性を更に「身につけるもの」に広げていきます。高度な木工技術で知られる飛騨高山で、63mokkoは技術を学びました。その経験を元にお客さま一人ひとりに合った眼鏡を制作しています。個々の木の魅力~樹種ごとに異なる肌さわり、その木が持つ特性、時間と共に変わる色調~を最大限に活かして、既成概念にとらわれない様々な手法で、懐かしくも革新的な「身につける木のもの」を提案いたします。自分の生きかたを大切にするひとに。あなただけの、木の謹製眼鏡です。
Japan is a country with a variety of trees in the world. The Japanese have lived with the tree for a long time. Their identity have associated with the tree deeply. The tree has been used as building materials and daily necessities. And 63mokko widen the possibility to "a thing to wear" more. I learned a technique in Hida-Takayama known as the high woodwork technology. I produce the glasses which matched each customer by the experience. I make use of the individual charm of trees to the maximum. Different skin touches by tree's kind, the characteristic that the tree has, Color to change with time. I suggest "thing of the tree to wear" with innovative and nostalgia by various technique not to be seized with an established concept. I hope that a person valuing way of own life wears it. This is carefully made wooden glasses only for you.