SPECIAL INTERVIEW
by GAKU GICLEE EXHIBITION
byGAKUGICLEE
SPECIAL INTERVIEW
byGAKU PRODUCER
NORIMASA SATO
2021.07.20 tue.
Interview:Yoshiko Asano
Photo:Ryo Inoue
GAKUさんは自閉症で、
自分の作品を紹介する言葉を持ちません。
(もっとも絵という豊かな表現を持っているのですが。)
そこでGAKUさんの父親であり彼のプロデュースを手掛ける
佐藤のり氏にGAKUさんの制作の秘密から、
ユニークな取組みが盛り込まれている
今回の展示のことまでお話をうかがいました。
001
絵を描くことで、
言葉を得た
色鮮やかでポップな作品が並びます。動物を描いたものや、抽象的な幾何学模様を描いたものなどがありますが、同じシリーズは同じタイミングで描かれたものなのですか?
GAKUにはブームがあって、同じテイストのものを4〜5枚続けて描いています。ブームが去ると、バン!と全く違うところに行く感じ。なにをどのタイミングで描くかは、誰にも分からなくて、「この感じすごくいいから、もう1枚描いてみたら?」と促しても「No」と断られちゃう(笑)。大きな流れで見ると、どうやら今はドットに興味があるみたいだ、などと分かるのですが、どう仕上がるかはGAKUのみぞ知る、です。
GAKUさんは16歳で出会った岡本太郎の絵をきっかけに、突然絵を描き始めたのですよね。その時、彼の中でなにが起きたのでしょう?
「あぁこうやって表現すればいいんだ」と、アウトプットの方法が見つかったのだと思います。GAKUにとって「絵は言葉」です。彼が描くまで、なにを感じているか、なにを表現したいと思っているかを、知るすべがありませんでした。
絵を描くことは、彼にとってのコミュニケーションの手段です。年間200枚以上描いているのですから、実はずいぶんおしゃべりだったんですよね(笑)。人間の知性は、言葉だけでは測れないということでもあります。
絵を描く以前と以後で、GAKUさんは変わりましたか?
絵を描く以前のGAKUは、背が高くなることを恐れていました。成長して大人になることは、先行き不透明で不安なことでしかありませんでした。しかし「GAKUの仕事はペイント」と言えるようになってからは、漠然とした大きな不安は解消されたようです。なにしろ初めて人に褒められたわけですから、彼の自信につながっています。
最新の画集ではメイクをしてモデルにもチャレンジしています。いまどきのジェンダーレスな若者でかっこいいですよね。→クラウドファンド『byGAKU - 20』20歳の記念画集プロジェクト
2021.8.31まで
GAKUは、自閉症の傾向としてじっとしていることが苦手なのですが、美容室に行くと、あの落ち着きのないGAKUが座ってブリーチしてもらっているんです! 初めて髪を染め、メイクをした自分を見て「自分、イケてる」と思ったみたいですよ(笑)。彼ならではの美的感覚にスイッチが入って、ファッションを楽しんでいます。
002
今回の展覧会では、原画ではなく、すべて精密な複製画である「GICLEE/ジークレー」を展示・販売します。日本ではかなり先駆的な取り組みになりますね。
ジークレーとは2億画素の解像度で、原画を極限まで忠実に再現するレプリカで、既に海外では広がりつつある手法です。た だ画家が有名になってから制作をすることが一般的なので、アートに詳しい人ほど、今回の取り組みに驚いています。
アート界に対する
アンチテーゼ
あえてそこに踏み込んで、実現したいことがあるということでしょうか。
僕たちは、既存のアート界で常識とされてきたことに「それって本当?」と疑問を投げかけて、新しいアートのあり方を提示したいのです。例えば、絵の値付けの方法。通常新人の作品には「1号1万円」というサイズによる相場があります。それはどんなに自信作でも変わりません。反対に大きければ出来があまりよくなくても価格は高くなる。これって変ですよね。ですから僕たちは絵それぞれについて「感情的にいくらだったら手放してもいいか」という基準で価格を決めることにしたのです。
GAKUの絵には、「Happyライン」と「APライン」という2つのラインがあります。「Happyライン」は、みなさんにハッピーをおすそわけしたいと価格を設定している作品群。「APライン」は、Artist Proofといって、基本的には画家が所有するもので、どうしてもという場合にのみ一対一で価格を設定してお譲りするものです。
今回展示するのは、すべてこの「APライン」の作品です。GAKUにとってのシグネチャーが表現されていて、重要な作品ばかり。ただそれだとなかなかみなさんに手にとっていただくことができないので、ジークレーを制作することにしたというわけです。
003
GAKUさんの絵とのアクセスの方法が増える、というイメージですね。興味を持つ人は、従来の展覧会と変わりそうですか?
見に来てくださる方は、GAKUの絵が好きな方という点で変わりないと思いますが、購入を検討してくださる方は変わると思います。ジークレーは、もっと気軽に飾りたい、インテリアとして購入したいというニーズに応えられるものです。
もっと自分の眼で
アートを見よう!
GAKUさんの絵が部屋にあったら、元気が出るだろうなと想像できます。
これは僕の考えですが、クリエイティブというのは、闇と対面する作業です。宇宙のビッグバンも、土の中から植物が芽吹くのも、赤ちゃんが子宮から生まれてくるのもそう。 クリエイティブの根源は闇の中にあって、それが外に出た時にどのように光を当てるかというのがアーティストの役割ではないでしょうか。究極のポジティブというのは、内在しているネガティブをポジティブに変換できる力が強いということ。その意味でGAKUの人生も、本人は明るくハッピーなのですが、内面的には社会から隔離され自分の中に閉じ込められている期間がずいぶんありましたから。その闇をポジティブ変換したのが、彼の絵なのだと考えています。
先日この展覧会の告知としてGAKUさんの絵をお店に貼っていたら、年配のご婦人に声を掛けられました。「絵と目が合ったから入ってきたけど、まだなのね」って(笑)。ステキだなぁと思いました。幅広い人を惹きつける、人を緊張させない絵ですね。
絵もまたみんなに開かれたカルチャーなので、本当にいいもの、自分が好きなものはそれぞれが判断すればいいと思うのです。映画やマンガを評価するみたいに。
GAKUは、毎日素直な気持ちで絵と向かい合っています。この展覧会が、そのエネルギーをストレートに受け取ってもらえる場になったらうれしいですね。
byGAKU/がっちゃん
アメリカ国籍/2001年生まれ 川崎で活動
生まれつき自閉症で知的障害と診断され、自閉症対処で9年間ロスアンジェルスへ渡米。15歳の時に日本へ帰国し、父親が川崎で始めたアイム(発達障害の福祉施設)の運営するノーベル高校に通い始める。言語を介さない独自の特殊な世界観を持つ。小学2年生ほどのコミュニケーション力だが、言語を超えた領域で特別な能力を発揮。左脳を排除した右脳だけの世界で自分の表現力をみつける。彼の作品は極めて直感的で外の次元からパワーが炙り出てきているかのような波動を発している。現代人が窮屈な常識や世間のこうあるべきだというルールで疲弊する中、彼の直感的で自由な表現力は、我々に「本当の障害とは何か?」を問いかけている。
佐藤典雅/のりさん
GAKUさんのお父さん/株式会社アイム代表
株式会社アイム代表。BSジャパン、ヤフージャパン、東京ガールズコレクション、キットソンのプロデューサーを経て、自閉症である息子のために福祉事業に参入。川崎市で発達障害の児童たちの生涯のインフラ構築をテーマに活動している。神奈川ふくしサービス大賞を4年連続で受賞。著書に『療育なんかいらない!』(小学館)がある。息子であるGAKUは国際的なアーティスト活動が注目され、数多くのメディアで取り上げられている。
※今回の展示・販売は原画ではなく、高細密な複製画(GICLEE)となります。byGAKU作品をお求めやすい価格で、より身近にお楽しみいただけます。
GICLEE/ジークレー作品について
ジークレーはフランス語で「「吹き付けて色をつける」という意味。原画の持つニュアンスを極限まで忠実に再現するレプリカの手法である。リトグラフ、シルクスクリーン版画と違って、版を用いずに刷り上げるのがジークレーの特徴。近年ではルーブル美術館やメトロポリタン美術館でもジークレーが展示されている。byGAKU Premium Giclee SeriesではGAKUが原画で放つ豊かな色彩を忠実に布キャンバスにプリントして再現。キャンバスの縁取りもポップなカラーで単体で飾れるようになっている。
原画撮影に使用されているのは、世界最高峰であるハッセルブラッドHデジタルシリーズ。通常のハイエンド一眼レフの35mmセンサーより倍の面積からなるセンサー。圧倒的な高密度を誇る「2億画素」のセンサーで原画のディテールを極限まで再現。一枚の画像を三つのRGBチャンネルごとに分けて撮影。各レイヤーごとに16bit(6万5536階調)で撮影し、合計48bitの約281兆色で捉えて原画を再現。1枚の画像につき600MBのファイルとなる。