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SPECIAL INTERVIEW

Honami Shigeta

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海の生命と

廃棄物の物語を、

アートでつむぐ。

Honami Shigeta
SPECIAL INTERVIEW

2022.06.01 wed.
Interview:Eisuke  Koyasu ​
Photo:Ryo Inoue

繁田穂波さんは、水棲生物画家。

水中や海中、水辺に暮らすさまざまな生き物を題材として

作品を手がけています。

ペン画やウォールアートだけでなく、

近年では日本画の画材を彫って線を描くミクストメディア、

海洋ゴミを使ったアップサイクルアートなどによって、

環境問題を啓蒙する斬新な作品を数多く生み出しています。

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小さい頃から抱いていた畏怖や
憧れをテーマに

どのような経緯で水棲生物をテーマに選んで創作されているのでしょうか

水棲生物画家として本格的に活動を始めた当初はボールペンを使ったペン画での創作でしたが、生き物の絵は子どもの頃から描いていました。きっかけは、当時から通っていた地元青森の水族館。海との出会いも海の生き物との出会いも、ここが私の原点です。そして、はじめて出会った水棲哺乳類がイルカでした。

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生命の起源は海と言われるように、私にとっての海は人間の魂が還る場所であり新たに生まれてくる場所。私にとっては、生と死を同時に感じられる場所でもありますね。海の生き物に対しては、子どもの頃から畏怖や憧れを抱いていました。生きることに純粋で、真摯に、一生懸命に生きている姿に惹かれるからです。私が水棲生物へ尊敬の念を抱き、「命の循環」をテーマに創作活動をはじめたのはとても自然なことでした。

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生命の循環を体現する表現方法への 試行錯誤

現在の独特な表現方法にたどり着くまでにはどのような経緯があったのでしょうか

2020年の春ごろ、沖縄でシュノーケリングをしていたある日、前日まで美しかった海に、ビニール袋やプラスチック製品などのゴミが大量に浮いている光景を目にしました。海洋ゴミについては講演会に参加した経験もあって知識はあったものの、その光景は大きな衝撃でした。実は、漁師さんが網を浮かせるのに使う「浮き玉(ブイ)」にはプラスチック製のものもあり、

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海の近くで仕事があるときは、できるだけ近場でゴミ拾い活動 @越前海岸(福井県鮎川海水浴場近くの浜辺)

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これが日本各地の砂浜に大量に打ち上げられているという現状があります。実際に回収活動をしている方々によると、そのままでは産業廃棄物になるので回収した後の処分に困っているというのです。「プラスチックは石油化学製品。石油も元は太古の生物やプランクトンの死骸が堆積したものとされています。つまり地球から生まれた石油が人間の手でプラスチックに姿形を変えて私たちのもとへ還ってきたんです」という彼らの言葉がとても胸に刺さりました。

悪いのはプラスチックや石油化学製品ではなく、それを使いこなせていない私たちなんですよね。なにより、念願だったプロの水棲生物画家となり生き物のためを思って活動しているのに、大量のプラスチック製ボールペンや日用品類を消費しつづける創作・生活によって、逆に環境に悪影響を及ぼす側に回っていたことに気づかされ、本当にショックでした。そこで、微力ながら私も浮き玉を回収し、球体を惑星になぞらえて海や生き物を描くことで、廃棄物をよみがえらせるアップサイクルアートとして創作することにしました。

また、当時通っていた日本画教室で手にした日本画特有のクリーンな画材や顔料に着目し、自然素材を使った新たな技法を模索しはじめたのもその頃でした。日本画では、岩や土、貝殻などを原料とする水干絵具という自然顔料が使われます。色をつくる際に加えるのは、ニカワ(動物の皮や骨に含まれるたんぱく質)や胡粉(ごふん:貝殻から作られた日本画の白色絵具)といって、やはり自然な原料です。これらとペン画を融合させたらどうだろう? と試行錯誤の結果たどり着いたのが、水干絵具を彫って削り、白い線画を描き出すミクストメディアという現在の表現方法です。絵具を地層のように塗り重ねることで「時間の経過」を、それを彫って線を描くことで「時間を遡る」イメージを表現しています。

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“遺灰”としての削りカスも大切に保管。1作品で出る量はほんの少しなので、15作品くらいでようやく1本溜まる。

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水干絵具で描いたベースとなる海の上を、デザインナイフで削った白い線で生物を描く。削りカスをハケでそっと払い取る。

また動物由来の原料であるニカワを血肉、下地材の胡粉を骨、血肉と骨によって描かれた生き物から出る削りカスを遺灰と捉え、天に昇って新しい命として還ってくる意味も込めています。表現方法の確立により、「輪廻転生」や「命の循環」というテーマに一層の説得力が自分の中にも形作られるようになりました。これらの作品がお客さまの手にわたることで世界の海の現実が伝わり、海洋ゴミの処分に困っている方々のお手伝いにもつながっていく。その結果として少しでも環境改善の一助になれたらと思うのです。

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画集に込める感謝の想いと
啓蒙へと続く道

これからの創作活動、
また活動の広がりの展望をお聞かせください

いよいよ今年で30歳。これまで支えてくれたすべての方へとにかく感謝の気持ちを伝えたいと思い、画集を出版することにしました。原画だと高額になってしまうけれど、画集ならより手軽に手に取ってもらえ、多くの方々に届けられますよね。昔からファンでいてくれたお客さまにも、青森にいる家族にも、私の活動の軌跡を見てもらえる。もちろん「25歳で個展、30歳で画集」という、自分で立てた目標達成のためでもあります。

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循環を表したり「ご縁」にかけて、最近は丸い作品がメイン。 テーブル上の作品は、海洋ゴミのブイのアップサイクルアート。

私の実家は、祖父が洋服を仕立てるテーラーで、祖母と母が美容師といういわば職人一家で、「手に職をつけて生きなさい」という教えに強い影響を受けて育ちました。逆に両親は夢を叶えられなかったところもあり、「あなたはやりたいことをしなさい」とずっと応援してくれました。学生時代、雑誌の片隅に作品が紹介されたとき、発売日に買いに行ってくれた母から「お店の前で泣いちゃった」と言われた日のことは今でも忘れられません。だからなおさら、自分の成長した姿を画集に込めて見せることで「繁田穂波を応援してきて良かった」とすべての方に思ってもらいたいと思っています。

私を育ててくれた故郷・青森にも、恩返しになるようなことはできないだろうかと考え、今、地元のねぶたで使われている顔料や和紙、津軽塗の漆器に使われる漆など、地元の素材を取り入れた創作活動にも取り組みはじめています。和紙に自然顔料でイルカなどを描いてライトアップしてみるとか、いろいろ検討しながら啓蒙活動につなげられたらと。今後は脱プラ生活やゴミ拾い運動などを通じ、日常的な視点からも海洋ゴミや地球環境の現実を知ってもらえるように発信・活動を強化していきたいですね。

プロとして独立したことで、さまざまな方と協業し相乗効果を生み出す面白さも知りましたし、同時に、一人ではできないことがたくさんあるんだということも気づきました。30歳の今の私の目標、それは作品を買ってくれたお客さまが、胸を張って自慢できるようなプロフェッショナルになること。繁田穂波は、まだまだこれからです。

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繁田穂波 Solo Exhibition 2021 @SUTGALLERY

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繁田穂波

水棲生物画家

1992 青森県弘前市で誕生
2017 展示会で入選

2018 初個展開催
2020 海洋ゴミを知る
2022 クラウドファンディング

命の循環をテーマに水棲生物を用いて、生命の強かさや儚さを描く。絵具の層を彫って描く流線は「その生命から感じ取る息吹」を表現している。ペン画を製作してくなかで描くことでゴミを出し続けていることに違和感を感じ、岩、土、貝殻などの日本画の絵具に着目し現在のミクストメディア作品に転向した。不要になったブイ(浮き)にアートを施すことで、新しい命を吹き込み生まれ変わらせるアップサイクルアートにも精力を注いでいる。

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繁田穂波 初画集 制作プロジェクト

私の人生計画 第二弾 『30歳で画集をつくる』

この度、私、繁田穂波の夢を叶えるべく、クラウドファンディングにより、

皆さまからのご支援をお願いすることになりました。

詳細はクラウドファンディングサイト「Campfire/キャンプファイヤー」にて展開いたします。

2022年9月16日より開始予定です。

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増え続ける、海洋ゴミ。

持続可能な開発目標(SDGs)のターゲットの1つとして「2025年までに、海洋ゴミや富栄養化を含む、特に陸上活動による汚染など、あらゆる種類の海洋汚染を防止し、大幅に削減する」が掲げられています。また、G7シャルルボワサミット(2018年6月)では、G7全ての国が海洋環境の保全に関する「健全な海洋及び強靱な沿岸部コミュニティのためのシャルルボワ・ブループリント」を承認し、「海洋の知識を向上し、持続可能な海洋と漁業を促進し、強靱な沿岸及び沿岸コミュニティを支援し、海洋のプラスチック廃棄物や海洋ゴミに対処」するとしました。こうした国際動向があっても、私たち一人ひとりの意識が変わらなければ、海洋ゴミは減るばかりか、増え続けてしまいます。海洋ゴミの中でも突出して多いのがプラスチック製品です。さらにその内訳は、飲料用ボトルがダントツで、次に漁網やブイなど海で仕事をする道具がしめています。私たちができることとして、飲料用ボトルを減らすことは日常のアイデアで解決ができますが、海の道具では難しい現状があります。プラスチックは便利で経済的な側面をもつと同時に、海を汚すゴミとして多く排出されている。今後の取り組みとして私たちができることはなんでしょうか?少しでも海の生物を守るために、意識しなくてはならないこと、考えることがその一歩となります。

日本での漂着ごみ調査結果/海洋ゴミの種類別割合

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【新型コロナウイルス感染症対策として】

入場はマスク着用とさせていただき、入店時には手指のアルコール消毒をお願いしております。また『緊急事態宣言』発令中につきましては、同時に入店4名様までと人数の規制をさせていただきます。ほかSUT『感染対策』のガイドラインをご覧ください。

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